『賢明なる投資家』の第1章から得られる投資家としての姿勢

『賢明なる投資家』(ベンジャミン・グレアム著)

『賢明なる投資家』(ベンジャミン・グレアム著)

 ウォーレン・バフェットも師と仰ぐベンジャミン・グレアム氏。彼が遺した『賢明なる投資家』は、国内外でベストセラーを記録しており、今なお投資家に多大なる影響を与え続けている。

 10月に開催されたCFA(Chartered Financial Analyst)Japan Book Clubのトライアルでも、『賢明なる投資家』の第1章「投資と投機」がテーマとなり議論が行われた。ブッククラブでの意見と共に本書から得られる教訓を考えてみる。

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『賢明なる投資家』の第1章では、投資と投機の定義から始まる。グレアム氏は「投資とは詳細な分析に基づき、元本の安全性を守りつつ、適正な収益を得るような行動を指し、この条件を満たさない売買を投機である」と考える。

 当時、投資は「ウォール街で有価証券を売買する人々」という意味で新聞などのメディアでも使われることがあり、グレアム氏が考える「投資家」の認識まで至らない人も多かったようだ。では投資家への認識の違いが、資産運用にどのような影響を与えるのだろうか。その参考例として1948年のFRB(連邦準備制度理事会)の調査が挙げられている。この調査では、調査対象の約90%が当時、普通株の購入に反対しており、半数は「安全性に欠けるギャンブルだ」とも回答した。

 この状況にグレアム氏は、「実に皮肉なことに、普通株が最も魅力的な値段で売りに出され、歴史的な価格高騰が始まろうとしているときに買うこと自体が、ごく一般的に投機的すなわちリスキーだと考えられていた」と語っている。「投資家」として、商品に対する詳細な分析と適切な認識をしっかり行えれば、当時の普通株をリスキー・投機的と誤認せず、「投資」を行えていたかもしれない。これは収益機会を逸した事例だが、逆に損失を被るケースも考えられるため、グレアム氏の考える投資家としての基本姿勢は忘れないようにしたい。

 グレアム氏は本書を通して「読者が普通株の売買においてつきものであるリスクについて、適正かつ明確な認識を得ることを信じている」と願う。ここでは普通株への言及に留まっているが、我々を取り巻くすべての金融市場に対して該当することだろう。現在は個人でアクセスできる金融市場が70年前よりも拡大しており、為替相場、商品相場、仮想通貨相場など様々な市場で、プロ投資家ではなくとも取引が可能だ。選択肢が増えたことにより収益チャンスが増える可能性も秘めるが、「投機」になる可能性も同等にある。

 本書に倣い、各市場への十分な理解と共に、最適なアプローチ方法を検討するよう心掛けたい。

『賢明なる投資家』第1章から今の相場に活用できること

『賢明なる投資家』の第1章では他にも

  • ■3つの愚かな投機
  • ■安全かつシンプルな投資を好む「防衛的投資家」が手に入れるもの
  • ■「積極的投資家」が手に入れるもの
  • ■「賢明な投資家」とは?

など、「投資とは?」という基礎概念を多数の例と共に解説する。これから資産運用を検討しようとする人にとっては、投資に向き合う姿勢を学べる書籍であり、第2章以降ではどのような投資手法が望ましいのか、という具体的な方法論も展開されるので、すでに投資をしている人にとっても新たな気付きを得られるかもしれない。

 ここでブッククラブメンバーの本書へのコメントもいくつか紹介しよう。

70年以上前でも色褪せない「投資の基礎」がある。
70年前が初版ということもあり、一部の例は古く現代とは状況が違う部分もあるものの、フィロソフィーは現在にも通ずる。金融のプロというよりも、これからこの世界に入るひと、顧客に呼んで欲しい内容。
Only read the first two chapters, it is insightful for the students who is going to enter the investment or speculation world. The impression I got is, make inner peace (be prepared to lose) when doing the investment or speculation and don’t be cocky when you win.

『賢明なる投資家』には仮想通貨のような新しい相場が生まれようとも普遍的に活用できる知識があると、ブッククラブでも議論が白熱した。「個人投資家の中には、投資はエキサイティングな一面があると考えている人もいるだろうが、実際は地味で退屈なことが多い。投資のプロセスはとてもシンプルである」という意見も見られた。時代が進むにつれIT技術が飛躍的に進化し、投資環境も70年前とは一変しているが、金融市場における望ましい投資行動の原理は変わらないのかもしれない。本書にはそういった投資家の基礎を作り上げる知識が垣間見られ、今なお活用できることも多い。それが長きにわたり世界中から称賛の声が集まり続ける理由だろう。

『賢明なる投資家』の書評・コメント

 ブッククラブメンバーによる『賢明なる投資家』へのコメントもいくつか紹介する。

I feel it is most useful for the retail market and not as useful for investment professionals. Also slightly outdated.
It is the investing bible. The principles will always be of great value.
割安銘柄を探す、ドルコスト平均法など、個人投資家が実践すべき基本がしっかり書かれている。
今も当時も、投資と投機を分けて考える事はとても重要。今は当時と違い、一般公開されている情報は誰でもすぐに手に入るので、それを利用してのアウトパフォームは難しいだろう。それ故に、突飛な情報に飛び乗らず、堅実な投資が求められる。
I the mind set is useful.
Now we have computerized. So quantitative funds and investment management using technology is prevalent.

来月のマーケット展望

 ブッククラブメンバーの2019年11月のマーケット展望を紹介する(ブッククラブ開催時点)。現役トレーダーで当メディア編集部の「天空の狐」が各市場の展望状況も解説する。

NYダウ

 楽観66%が多数。開催日が10月3日、前日は-2.08%大幅下落、弱気への変化はない様子でした。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
NYダウ

66%


17%


17%

日経225

 中立67%が多数、数値的には偏りがあり、全体に転換が近いです。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
日経225

33%


67%


0%

EUR/USD

 中立60%、方向模索から転換が近い市場と判断です。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
EUR/USD

20%


60%


20%

USD/JPY

 楽観、中立各40% 中立目線で様子見となります。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
USD/JPY

40%


40%


20%

金価格

 中立60%、楽観40%と拮抗しており、市場はBOXの予想です。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
金価格

40%


60%


0%

WTI原油価格

 楽観80%と、偏った結果ながらマクロ経済で考えると納得の結果です。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
WTI原油価格

80%


0%


20%

BTC/JPY

 下落展開でも中立60%。今後持ち直せるのかどうか、市場の潜在性を確認しているのでしょう。

  • Optimistic
  • Neutral
  • Pessimistic
BTC/JPY

0%


60%


40%

総評

 全体的に楽観寄りの市場予想ともいえます。当日は「不調な日経225の反転は近いのか?」と思いながら、翌日からNYダウの連れ高により反発しました。

 とあるグループの投資行動から、市場動向を探る試験的な取り組みであり、データを解析する身としては興味深い結果となりました。ブッククラブメンバーの相場観を定点観測することで、創造的なインデックスが生まれる予感がします。

会場

 ブッククラブが開催された会場は日本橋茅場町の「CAFE SALVADOR BUSINESS SALON」。カフェとビジネスサロンの両方を兼ね備え、ビジネスミーティングに最適なソファ席、ひとり向けのデスク、セミナーに利用できる会場など、さまざまなスペース・環境を提供している。公式サイトはこちら

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